福岡大学確率論セミナー
本セミナーでは確率論の研究者を中心に、幅広く講演者を募集します。講演を希望される方は、世話人までご連絡ください。
場所:福岡大学理学部9号館4階大学院講義室3
世話人:桑江一洋(福岡大学理学部),天羽隆史(福岡大学理学部),江崎翔太(福岡大学理学部)
2017年度のセミナー記録
- 2018年2月15日 16:30-18:00
- 場所:福岡大学理学部9号館4階大学院講義室3
- 講師:塩沢 裕一 氏(大阪大学大学院理学研究科)
- 題目:Upper rate functions of Brownian motion type for symmetric jump processes
- 講演要旨:本講演の内容は Jian Wang 氏 (Fujian Normal University) との共同研究に基づく.
実軸上の対称レビ過程に対して,分散が有限ならば重複対数の法則が成立する (Gnedenko 1943).
この事実に動機付けられて,正則ディリクレ形式から生成される
(ユークリッド空間上の)飛躍型対称マルコフ過程について,
upper rate function が重複対数型(ブラウン運動型)になるための条件を調べる.
ここで upper rate function とは,粒子の空間内での広がりの程度を表す関数のことであり,
保存性の定量的表現にあたる.
本講演では,ディリクレ形式の飛躍関数の2次モーメントが有界になるような条件の下で,
upper rate function が重複対数型になることを紹介する.
証明の過程で,飛躍型対称マルコフ過程に対応する熱核の長時間挙動を解析するので,
このことについても解説する.
- 2018年1月25日 16:30-18:00
- 場所:福岡大学理学部9号館4階大学院講義室3
- 講師:中島誠 氏(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)
- 題目:ランダム媒質中の1次元ディレクティドポリマーの自由エネルギーについて
- 講演要旨:この講演ではランダム媒質中のディレクティドポリマー(DPRE)について述べる. DPREは不純物の混ざった溶媒中で成長する高分子の成長を記述する確率模型である. 高分子は不純物と相互作用しながら成長し, その挙動は自由エネルギーと呼ばれる量によって大きく変わることが知られている.
近年では1次元DPREとKPZ方程式との関連に注目が集まっている. 1次元DPREはKPZ普遍クラスに属しているという予想があり, 弱い意味でKPZ普遍性が成立することはAlberts, Khanin, Quastelらによって証明された.
本講演では1次元DPREの自由エネルギーの挙動をKPZ方程式のCole-Hopf解の挙動から導く.
- 2017年11月2日 16:30-18:00
- 場所:福岡大学理学部9号館4階大学院講義室3
- 講師:土屋 貴裕 氏(会津大学)
- 題目:Stability problems for Cantor stochastic differential equations
- 講演要旨:本講演では 一次元のドリフトなしでnon-Lipschitz 拡散係数をもつ確率微分方程式の解の安定性とその応用について述べる.ソース論文は
https://arxiv.org/abs/1604.06839 (SPA in Press).
拡散係数が non-Lipschitz であると解の概念自体を整理して考える必要がある.なぜなら Engelbert-Schmidt
の弱解の存在と一意性定理,山田渡辺の道ごとの解の一意性などあるように退化の度合いは解の性質を決める上で重要な鍵となっているからである.ここでは単調増大で原点出発する係数について道ごとの一意性が成立する必要十分条件をひとつ導き出しておく.これによって強解における安定性問題を考えことができる.
その上で non-Lipschitz
拡散係数を一様ノルムで近づけた時の安定性を上から評価で特徴づける.この結果は(1/2)-Holder連続な係数に対するEuler-丸山近似で指摘されているように収束が比較的に遅いこと整合的である.この収束が最適か議論するため,今回は異なるアプローチをとる.すなわち,そのまま近似するのではなく,もとの拡散係数に手を加えた上での収束の安定性の結果を示す.より正確には下から
\(\epsilon\) だけ持ち上げた拡散係数を考える.するとこの係数は 一般化された Nakao-Le Gall
条件を満たし,なおかつ収束は係数に\(\epsilon^{-3}\)がかかるが多項式のオーダーで,しかもそのオーダーは \(\epsilon\)
に依存しないことが示せる.
具体的な例として\(\lambda\)-Cantor関数を考える.これは中央部分を \(\lambda \in (0,1)\)
だけ取り除いて逐次的に構成できるCantor集合に対する関数で\(\mathrm{H}_{\lambda}\)-Holder連続な関数になる,\(\mathrm{H}_{\lambda}
\in (0,1)\).それを拡散係数にもつ確率微分方程式を考えることで解の安定性問題が考えられる.先の必要十分条件の命題を踏まえつつ,上記の二通りのアプローチの仕方で上からの評価がだいぶ様相が異なることを示す.
最後に偏微分方程式における一般的な仮定を満たさないが弱解を持つ Fokker-Planck
等式への応用について述べる.さらに最近のMalliavin解析の結果を援用して滑らかな基本解の存在と一意性を導き出せることを紹介する.
- 2017年10月26日 16:30-18:00
- 場所:福岡大学理学部9号館4階大学院講義室3
- 講師:永沼 伸顕 氏(大阪大学基礎工学研究科)
- 題目:Bessel型確率過程の分布密度について
- 講演要旨:本講演では確率微分方程式を用いて定式化されるBessel型確率過程の分布密度の存在や連続性について考察する.
確率微分方程式の解の分布密度の存在や滑らかさについては,Malliavin解析を用いた深い結果がある.しかし,これらは確率微分方程式の係数がLipschitz連続な場合の結果であり,確率微分方程式を用いて定式化されるBessel過程などに直接適用することはできない.しかし,Florit-Nualartが提唱した局所非退化という概念を用いればBessel型確率過程の分布密度の存在や連続性が示すことができる.
本講演では,この結果の証明の概略を紹介する.時間が許せば類似の問題の最近の進展にも触れたい.
- 2017年10月5日 16:30-18:00
- 場所:福岡大学理学部9号館4階大学院講義室3
- 講師:Roland Friedrich 氏(Saarland University)
- 題目:Operads and Stochastic Calculus
- 講演要旨:In this talk we shall discuss the operadic nature of Itô and
Stratonovich calculus. More precisely, we shall be
Concerned with the space of continuous semimartingales and we will
relate it to two fundamental operads which have their roots in
algebraic topology. Further, we will explain how the two are related
from a cohomological perspective. Finally, we shall present an
algebraic-geometric description of the Girsanov transformation.
- 2017年7月6日 16:30-18:00
- 場所:福岡大学理学部9号館4階大学院講義室3
- 講師:難波 隆弥 氏(岡山大学大学院自然科学研究科)
- 題目:Central limit theorems for non-symmetric random walks on nilpotent covering graphs
- 講演要旨:ベキ零群を被覆変換群とする被覆グラフのことをベキ零被覆グラフと呼ぶ. 我々は以前に小谷-砂田による離散幾何解析を援用して, ある仮定の下で(汎関数)中心極限定理が成り立つことを示した. その際スケール極限として捉えたベキ零Lie群値拡散過程の生成作用素にランダムウォークの非対称性からくるドリフト項を見出していたが, 今回これが実現写像のambiguityによらず定まるという性質を示し, ある幾何学的な表示を得た. さらに従来の中心極限定理を示す際に置いていた仮定のうち, いくつかをはずすことに成功したので, その証明の手法などについても解説したい. 時間が許せば, 最近得た新たなベキ零被覆グラフの例についても紹介したい. 本講演の内容は石渡聡氏(山形大)及び河備浩司氏(岡山大)との共同研究に基づく.
- 2017年6月29日 16:30-18:00
- 場所:福岡大学理学部9号館4階大学院講義室3
- 講師:柳 青 氏(福岡大学理学部応用数学科)
- 題目:Convexity preserving properties for Hamilton-Jacobi equations in geodesic metric spaces
- 講演要旨:We study convexity preserving properties for a class of time-dependent Hamilton-Jacobi equations in geodesic metric spaces. Convexity preserving properties for nonlinear evolution equations are well known in the Euclidean space. We extend the classical results for first order equations to the Busemann spaces by using a recently developed theory of viscosity solutions on geodesic spaces. We provide two different approaches and discuss several generalizations for more general geodesic spaces. This talk is based on joint work with A. Nakayasu (U. Tokyo).
- 2017年5月18日 16:30-18:00
- 場所:福岡大学理学部9号館4階大学院講義室3
- 講師:桑江 一洋 氏(福岡大学理学部応用数学科)
- 題目:\(L^p\)-independence of spectral radius for generalized Feynman-Kac semigroups
- 講演要旨:対称マルコフ過程に低階項の摂動を加えて得られる対称なファインマン・カッツ半群の\(L^p\)-スペクトル半径の\(p\in[1,+\infty]\)に関する独立性について最近の進展のいくつかを報告する。これはワシントン大のZhenqing Chen氏と熊本大の金大弘氏との共同研究である。
この問題はB. Simon(80,82)によってブラウン運動の枠組みで、ある種の加藤クラスに属するポテンシャルによる摂動で得られるSchrödinger半群で最初に示された。その後、Takeda(96,99,02)によってクラス(T)を満たすマルコフ過程の半群の\(L^p\)-スペクトル半径に対して大偏差原理の応用として示され、その後、同じクラスでファインマン・カッツ半群に対しても示された(Takeda(11))。またクラス(T)でない場合にも大偏差原理を用いた結果を証明している(Takeda(07))。
それらの結果はnon-local な摂動を含む形でTakeda-Tawara(09), Tawara(10), De Leva-Kim-Kuwae(10)において一般化された対称ファインマン・カッツ半群に大偏差原理を適用する形で拡張されていった。
一方でChen(02)はファインマン・カッツ汎関数の計測可能性(gaugeability)を用いることで大偏差原理を用いない証明を最初に与え、その後、より一般的なファインマン・カッツ汎関数に対してDeLeva-Kim-Kuwae(10)の結果の拡張を計測可能性と一様可積分マルチンゲールの新しい判定条件を用いて示した(Chen(12))。またKim-Kuwae-Tawara(16) ではChen (12)の結果と少し異なる条件下で大偏差原理に基づく同様な結果を与えた。
いずれの結果も土台となるマルコフ過程の既約性に依存している。実際、大偏差原理の上からの評価はエルゴード性に基づくため既約性が必要であり、ファインマン・カッツ汎関数の計測可能性の特徴付けに用いられる計測定理(gauge theorem)の証明にも既約性が必要である。
今回は講演者自身によるマルコフ過程の既約分解に関する結果を適用することで既約性の条件を外すことができた。また摂動に用いられる
局所エネルギー\(0\)の連続加法的汎関数\(N^u\)に用いられる関数\(u\)も、Girsanov変換を適用するため今まで有界性を課していたが、今回この有界性も取り外すことができた。この部分の証明はChen氏のアイディアによる。いずれの進展もTerkelsen(72)によるminimax theoremを用いることが証明の鍵となる。
最終更新日 2018年6月20日