アセット・バック証券の歴史的展開
―アメリカ商業銀行を中心に―
アメリカ合衆国では,定期的な返済スケジュールをもつ割賦信用のABSs(アセット・バック証券)において,商業銀行が中心的な役割を果たしている。
1938年に住宅モーゲイジ貸付の流通市場がFNMA(連邦抵当金庫)によって導入され,時代が下った70年に住宅モーゲイジ貸付が証券化されている。代表的なMBSs(モーゲイジ担保証券)のGNMA(政府抵当金庫)保証付きパス・スルー証券である。MBSsの買い手は,売り手にリコース(償還請求)できるのである。住宅モーゲイジ市場において,商業銀行は若干の変動はあるもののシェアを保ち,1982年に連邦関連モーゲイジ・プールに抜かれたが,93年から貯蓄金融機関を上回っている。その結果,モーゲイジ・プールをのぞく金融機関では,銀行がトップになっている。
ターム・ローン(満期1年以上の事業貸付)の流通市場は,1970年代にSBA(中小企業庁)ローンのものが,80年代にSBA保証のない伝統的ローンのものが誕生している。ローン・セールの際に,伝統的なコルレス関係に基づいた古い形のパーティシィペイション(協調融資)もあるが,1980年代のパーティシィペイションは保証・保険なしのビッズ(入札)またはストリップス(分割)の形をとっている。このとき,リコースとノン・リコース(償還請求なし)のような制度慣行的な展開もみられる。
SBAローンの証券化は1980年代後半に始められ,一般に保証部分が証券化されている。商業モーゲイジ貸付の証券化も,RTC(整理信託公社)の活動もあって,1990年代に急増している。
自動車ローンも1980年代後半から証券化され,85−87年には最大のABSsであり,商業銀行が最大の発行者である。このとき,住宅モーゲイジ貸付とターム・ローンにおいて開発された,パーティシィペイション形式,パス・スルー証券,民間の保証やリコースが用いられたのである。
さらに,クレジット・ライン形式のホーム・エクイティ・ローンが,1980年代に急速に発達し,証券化もおこなわれている。同じくクレジット・ライン形式のクレジット・カード・ローンが,1990年代に急増し,証券化されている。このCARDs(certificates of
amortizing revolving debts)は1988−91年には最大のABSsになり,商業銀行が最大の発行者である。CARDsには,保証なしのパス・スルー証券,リコースからノン・リコースへの制度的な展開といった特徴がみられる。また,一般的な証券化取引では,クレジット・カード勘定が18%の収益を生むとすると,発行機関が3%を手にするという。この高収益が証券化のインセンティブの一つであろう。
Gorton, B. Gary, and Haubrich, Joseph G. (1990), “The
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Pavel, Christine A. (1986), “Securitization,” Federal
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証券経済学会第56回全国大会プログラム・報告要旨,14ページ。