アメリカ商業銀行の割賦信用
―管理通貨制度における商業銀行業務の変容―
アメリカの商業銀行は,管理通貨制移行後の1930年代に,本格的に割賦信用(ターム・ローン,モーゲイジ貸付,消費者貸付)に進出している。
生産・流通にたいする商業銀行の割賦信用の返済は,月々だけではなくより長期の回収間隔も多く,完全割賦返済だけでもなかった。月々の完全割賦返済の場合には貸付に一定の流動性がえられたのだが,その他の割賦返済の場合には十分な流動性がえられない。満期1年以上のターム・ローンの場合には,通常の貸付―回収(還流)だけではなく,銀行は国債売却によって中央銀行貨幣FF(加盟銀行の連邦準備銀行預け金)を手に入れる(資産管理)。これは,貸付の回収とよく似たかたちでおこなわれる。言い換えると,通常の貸付―回収(還流)だけでは十分な流動性のない割賦信用が銀行の行動に影響をあたえ,それが国債流通市場を発達させていく。銀行は,その後1960年代にCD(譲渡可能定期預金証書)を発行して,中央銀行貨幣FFを手に入れている(負債管理)。これは,国債とFFの関係と同じである。流動性調整の場である短期金融市場,すなわちFF市場,国債流通市場,CD市場が密接に関連しているのである。
さらに,商業銀行は,割賦信用の流通市場をも産み出していく。生産・流通にたいする割賦信用では,1970年代にSBA(中小企業庁)ローンの流通市場が,80年代に伝統的ターム・ローンのものが誕生している。このとき,流通市場や証券化で必ず用いられることになった,リコースとノン・リコースのような制度慣行的な展開もみられる。こうした流通市場においても,回収(還流)の拡大・先取りがおこなわれている。
一方,消費にたいする割賦信用では,月々の完全割賦返済が主流である。消費にたいする割賦信用では,住宅モーゲイジ貸付の流通市場が1970年代に導入され,70年代後半には証券化されている。よく大衆消費社会という用語が使われているが,消費を促進する産業,たとえば流通・広告業や商業銀行の流通市場・証券化関連ビジネスは第2次大戦後発展している。自動車ローンやクレジット・カード・ローンも1980年代後半に導入され,90年代には代表的なアセット・バック証券に発達している。その一方で,月々の完全割賦返済を柔軟にし自由にしたクレジット・ライン形式のホーム・エクイティ・ローンが,1980年代に急速に発達している。1990年代に注目されるようになった,銀行のクレジット・カード・ローンも,同様にクレジット・ライン形式である。