米国企業金融における銀行信用の役割

1960-80年代を中心に―

 

本論文は,アメリカ商業銀行による満期1年以上のターム・ローンを,企業の資金需要面から考察したものである。すなわち,1966年のクレジット・クランチ以降,企業がなぜターム・ローンを必要としていったかを,企業サイドから分析している。

アメリカ企業の資本蓄積は195060年代前半には順調に発展したが,66年のクレジット・クランチから種々の矛盾が表面化してきている。資本蓄積をおこなう企業は,景気循環過程における低金利の時期に,ボンドを発行して資金調達をおこなっている。ところが,信用需給が逼迫して金利が上昇する時期,すなわちクレジット・クランチから景気後退期にかけて,企業の資金調達において銀行借入が増加する。戦後194050年代の3回の景気後退期には,銀行借入は縮小している。しかしながら,1960年代以降の景気後退期には,銀行借入は,一時的に減少することはあっても,期間全体としては減少しない。この一時的に減少する銀行貸付は,短期の銀行貸出である場合が多い。長期のターム・ローンは,1966年クレジット・クランチ以降の景気後退期では,1981年第4四半期と90年第4四半期−91年第1四半期に減少しただけである。こうした動きが,1966年のクレジット・クランチから顕著に表われている。これは,19世紀のイギリスにおいて10年周期で発生した恐慌期における銀行信用の収縮とは,対照的な動きである。

平常時の安定したボンド発行は,企業に流れ込むキャッシュ・フローを低コストで供給する。一方,クレジット・クランチから景気後退期にかけて,銀行借入は増加し,企業の資本支出をまかなっている。これによって,ボンドだけでは不安定になりがちな企業のキャッシュ・フローを安定させている。196080年代初めの戦後4〜7回の景気循環期におけるクレジット・クランチから景気後退期にかけて証券市場が低迷したときに,企業が銀行借入,とくにターム・ローンにたよるのは,固定資本投資の減少を防ぐためである。ターム・ローンは不変固定資本に向かう貸付であり,この返済は不変固定資本の損耗価値cf部分が定期的に積み立てた減価償却基金によっておこなわれる。信用逼迫期にもかかわらず,企業が積極的に固定資本投資をおこなえば,資本蓄積様式は変化せざるをえない。もちろん,古典的な恐慌期において,支払手段の不足した企業が固定資本投資をおこなう余裕はなかったのである。