経済システム,そのなかでも金融システムは時代とともに急速に発展している。銀行・金融システムが変化するとき,個々の銀行は利潤動機によって行動している。個々の銀行行動が時として金融システムを大きく変えていくことがある。この銀行行動を管理通貨制という現代の通貨制度を軸にみていこうというのが本書の基本視点である。管理通貨制は狭義には通貨制度であるが,この通貨制度のなかで銀行業務や金融市場が展開されていくと考えれば,通貨制度にとどまらない広がりがある。
アメリカ合衆国では,1951年の財務省と連邦準備のアコードによって,第2次世界大戦後に金融政策の基本方針が変更されている。この金融政策の変更は,銀行流動性を調整するフェデラル・ファンズ(加盟銀行の連邦準備銀行預け金,以下FF)市場の再導入につながっている。FF市場は,一方で商業銀行貸出が長期化し,他方で有期預金が増加した1950年代後半にも引き続き拡大している。
銀行貸出の長期化は,源流をたどれば1930年代のニューディール期であろう。長期貸出は,割賦信用(ターム・ローン,モーゲイジ貸付,消費者貸付)の形をとっている。割賦信用とは,数か月〜数十年の貸付を定期的に返済するものである。この割賦信用に着目したことが,本書の特色の一つである。
このような銀行業務の展開と金融政策の変遷が重なった1950年代にFF市場が全米市場へ成長を始め,60年代にはFFが国債流通市場に流れ込みこの市場を発達させている。資本主義の黄金時代に,銀行流動性の調整手法が本格的に展開を始めたのである。本書では,ニューディール期の銀行貸出の長期化と戦後の多様な流動性調整手法を関連付けて構造的に把握している。本書を『管理通貨制度の機構分析』を名付けた所以である。
商業銀行は割賦信用に進出する一方で,割賦信用に関連する様々なビジネス,新しい市場を産み出していく。これを割賦信用と市場のダイナミズムと呼び,割賦信用と国債流通市場の展開,新型預金(CD市場,MMDAとスーパーNOW),割賦信用の流通市場・証券化との関係で分析している。とくに現代的には,最大の消費者貸付であるクレジット・ライン形式のクレジット・カード・ローンに銀行が深く関与し,カードの決済やアセット・バック証券業務を銀行がリードしていることが特筆される。アメリカ型の金融が現代の消費社会をささえるという側面である。