11回「最近の金融不祥事と金融再編成」

住宅金融専門会社(住専)とは?
 住専は、他の金融機関から融資を受け、それを貸し出すノンバンクの一種
 なぜ設立されたか?
 わが国の個人向け民間住宅金融は、1965年度末には公的金融(住宅金融公庫)が75.6%を占めていた。しかし、高度成長期の最中であり旺盛な資金需要を賄い切れないでいた。そこで、都市銀行が中心となり1970年代に住専を設立した(表1)。住専は1980年代前半まで住宅ローンを専門にしていた(表2

1 住宅金融専門会社7社の概要(19953月期)

設立

資本金

母 体 行

役員数

総資産

貸付残高

借入金
残高

日本住宅金融

71
6

313
億円

三和、さくら、東洋信託、大和、
三井信託、横浜、あさひ、
千葉、北海道拓殖

326

2
4046
億円

1
8943
億円

2
3458
億円

住宅ローン
サービス

71
9

54
億円

第一勧業、富士、三菱、あさひ、
住友、さくら、東海

273

1
6883
億円

1
4285
億円

1
6892
億円

住総

71
10

30
億円

信託銀行7

344

2
155
億円

1
6254
億円

2
200
億円

総合住金

72
7

25
億円

2地方銀行協会加盟行

227

1
3622
億円

1
1284
億円

1
3683
億円

第一住宅金融

75
12

221
億円

日本長期信用、野村証券

336

1
8263
億円

1
5148
億円

1
8156
億円

地銀生保住宅ローン

76
6

26
億円

地方銀行64行、生命保険25

181

1
2325
億円

8840億円

1
2187
億円

日本ハウジングローン

76
6

127
億円

日本興業、日本債券信用、
大和証券、日興証券、山一証券

401

2
5310
億円

2
2543
億円

2
5183
億円

796
億円

2088

13
604
億円

10
7297
億円

12
9759
億円

   

2 住専7社の貸付額の内訳

1980年度

1980年度

1990年度

住宅を取得する個人向け融資

96.5

67.0

21.4

住宅を取得する事業向け融資

33.0

78.6

(以上『AERA1996226日号)

住専問題とは?
 住専貸出先の不良債権は推計40兆円
 住専7社は約81000億円の不良債権を抱え、借入金約13兆円のうち少なくとも77000億円は返せなくなる
 住専に融資を行った金融機関は300にものぼる
 住専7社の借入金約13兆円のうち73000億円(6割弱)が銀行、55000億円(4割強)が農林系金融機関から

3 農林系金融機関の住専への融資残高

農林中金

全国組織

8000億円台

信用農協連合会(信連)

都道府県組織

33000億円台

全国共済農業協同組合連合会(全共連)
都道府県共済農業協同組合連合会(共済連)

保険業務をする農協組織

13000億円台

4 都道府県信連の住専への融資残高

1980年度末

1985年度末

1990年度末

70億円

2725億円

26701億円

(以上『AERA1996226日号)

5 住専処理に伴う各信連の負担額(単位・億円、端数切り捨て)

北海道

79.5

東 京

130.8

滋 賀

52.3

香 川

24.8

青 森

24.6

神奈川

102.6

京 都

29.9

愛 媛

21.8

岩 手

22.8

新 潟

42.7

大 阪

70.0

高 知

27.5

宮 城

0

富 山

23.6

兵 庫

67.7

福 岡

59.1

秋 田

15.9

石 川

31.5

奈 良

26.7

佐 賀

17.3

山 形

26.9

福 井

23.3

和歌山

31.0

長 崎

32.0

福 島

40.3

山 梨

31.4

鳥 取

5.7

熊 本

28.8

茨 城

58.2

長 野

51.3

島 根

5.7

大 分

18.0

栃 木

0

岐 阜

64.8

岡 山

60.6

宮 崎

24.7

群 馬

41.4

静 岡

219.1

広 島

37.0

鹿児島

24.1

埼 玉

0

愛 知

23.8

山 口

40.2

沖 縄

17.6

千 葉

83.3

三 重

108.4

徳 島

20.3

2000

バブル期に有価証券投資で失敗した宮城、栃木、埼玉の負担額が0になった(『朝日新聞』199631日)

 住専処理に伴う損失は64100億円(政府の公式見解)
 住専への融資割合に従って損害の負担を決めるなら、
  銀行は36000億円(64100億円の6割弱)負担するところを、
   42000億円(母体行35000億円、一般行17000億円)負担する
  農林系金融機関は27000億円(64100億円の4割強)負担するところを、
   5300億円しか負担しない
  不足分は税金6850億円を投入する

 住専処理に対する世間の評価

 ニュースステーションの世論調査(9611314日、665人回答)によると、
  税金投入を含む予算案を73%が「修正すべき」、16%が「そのまま成立」
 『週刊 ダイヤモンド』の企業トップ638人のアンケートによると、
  税金投入を48.8%が「認める」、43.6%が「認めない」
  農林系の負担が少なすぎるが53.4%、現状肯定が11.0%(96525日号)
 市民団体「『住専』に怒る市民の会」による国会議員アンケート
  「住専の経営破たんの責任はどこにあるか」
    「住専」約半分 2位:大蔵官僚 3位:政治家
  「最終的な国民負担の額」
    「予測できない」46% 「2兆円以上」32
  (回答者93人の党派は新進54人、共産14人、社民5人、自民4など)

 農林系金融機関の対応
 農林系金融機関は相互に資金支援する「農協信用事業相互援助制度」の積立金を拡充するため、農協から毎年新たに貯金量の0.002%の積立金を徴収するほか、農中と信連の積立金を973月から約7倍に引き上げる

 住専処理機構は損失を出さないか?
 住専処理機構は額面13兆円の住専の債権を引き継ぐ
 万一損失が生じた場合については、国と民間の両方がこれを折半で負担する
 住専7社が、95年度下半期に東京地裁で競売にかけた担保不動産5592100万円のうち、落札されたのは914100万円で、落札率は16%(95年度上期21%)
 95年度上半期には2割強(14件)を住専が自ら割高な価格で落札(自己競落)

母体行はどうしているか!
 債権流動化
 都市銀行や長期信用銀行などの母体行は、住専処理に伴う損失の穴埋めを、銀行の本業の利益に当たる業務純益だけではまかなえず、保有する計35000億円の融資債権を売る債権流動化に本腰を入れ始めた
 外銀の担当者や農林系金融機関などから「おたくの債権を売ってくれませんか」といった電話がよくかかってくるようになったという

住専向け債権の償却
 都市銀行や信託銀行、長信銀などの大手銀行21行は19924月から959月までの3年半で75000億円程度の不良債権を無税償却  その後有税償却へ
 この間の法人税、住民税が免除される額は合計で36000億円程度
 大手21行は963月期に不良債権11兆円を償却(過去最高額)
 973月期の償却額は大手銀行全体で2―3兆円程度にとどまる

他の金融機関も住専と同じ!
 959月期の預貯金取り扱い金融機関(銀行、信用金庫、信用組合、農協、商工中金、労働金庫)の不良債権は合計38兆円
 不良債権は全部で70兆円。ノンバンクの不良債権は住専の13兆円の何倍もある。どこのノンバンクも住専と似たりよったり。89割は回収不能
 過去3年間に金融機関が不良債権を処理する目的で共同で設立した「共同債権買取機構」に持ち込んだ不良債権121354億円のうち買取機構がさらに第3者に売却して資金を回収したのは4316億円、債権元本の3.6%にすぎない

愛媛、松山はバブルと無関係?

(国土庁土地鑑定委員会編『土地公示』各年版)

(国土庁土地鑑定委員会編『土地公示』各年版)


 19924月 伊予銀行が東邦相互銀行(全国最後の相互銀行)を合併吸収
  東邦の経営破綻の原因は86年以降の造船不況の深刻化
  預金保険機構が伊予銀に5年間で80億円の低利融資(預金保険の初適用)
  +第2地銀協から5年間で100億円の低利融資
 1996年 地銀生保住宅ローンが、日本興業銀行主導の海外プロジェクトでビル賃貸会社の海外不動産を担保に運転資金123億円を融資し、回収不能になる
 19963
  伊予銀行は地銀生保住宅ローン向け債権の全額63900万円と一般行向け債権69200万円のうち34200万円を有税償却
   旧東邦の不良債権の償却もほぼ完了
   1638900万円の不良債権を償却(不良債権総額は8058800万円)
  愛媛銀行は413000万円の不良債権を償却(総額は2989200万円)

金融再編成はどうなるのか?

6 信用金庫・信用組合の不良債権等の状況19959月期)

総資産

不良債権額

償却原資

信用金庫

1091475億円

34329億円

14121億円

信用組合

268439億円

21525億円

14121億円

(『日経新聞』1996425日)
1992
10月〜信金(東洋、釜石など)・信組(東京協和、安全など)がつぎつぎに破綻
地元信金・信組は地域に密着した情報力で低金利の都銀に対抗すべき

7 愛媛県の信用金庫の不良債権19963月期)

総額

不良債権比率

総額

不良債権比率

愛 媛

487100万円

2.3

伊 予

107500万円

3.4

東 予

127900万円

2.6

川之江

6300万円

0.2

宇和島

55200万円

1.3

三津浜

54500万円

2.5

1)不良債権比率=不良債権÷貸出金残高 2)伊予信金の不良債権は破綻先債権のみ。
(『日経新聞』1996528日)

8 都市銀行同士の合併

19904

三井・太陽神戸

さくら銀行

19914

協和・埼玉

あさひ銀行

19964

東京・三菱銀行

  住友・大和銀行が合併すれば、この24年間で都市銀行が15行から9行へ
  都銀、長信銀、信託主要21行の住専向け債権約27000億円の一括償却によって21行中17行が赤字転落わが国金融史上でも異例のこと(963月期)

 長期信用銀行と信託銀行はノンバンクと首都圏の不動産になだれ込んだ
  長信銀の不良債権比率は8.58%、不良債権の償却率は37%台
  信託の不良債権比率は11.02%、不良債権の償却率は38.8
 ノンバンク問題
 大手21行のノンバンク向け不良債権は71000億円。21行は系列ノンバンク向け不良債権として25568億円(953月期の3.3倍)を処理したが、独立系ノンバンクを中心に38000億円近くが未処理(963月期)
 中小金融機関などの系列ノンバンクと独立系ノンバンクの処理へ
 農林系金融機関のノンバンクへの融資額は66036億円、そのうち不良債権は3076億円以上(963月期)

9 金融機関資力構成

1

2

3

4

5

6

1980年度

全国銀行

資金運用部

信金

相銀

農協

生保
5.2%)

1994年度

全国銀行
39.7%)

資金運用部
21.5%)

生保
10.7%)

現況:生保29社中数社が赤字。利差配当ゼロ、特別配当減配、企業年金配当見送り、責任準備金取り崩しや積み立て停止など、史上初の異変
(『エコノミスト』199635日号)

参考文献

相沢幸悦『日銀法二十五条発動 平成金融恐慌から学ぶもの』中公新書、1995

浅井秀樹「中小企業の銀行通信簿 地響きの始まった四国共和国」、東洋経済新報社『金融ビジネス』11月号、1994

『朝日新聞』199639141631日、56日速報、8101829日、62日速報、7

「新しい伊予銀丸が出航 負担乗り越え、発展のバネとなるのは『マンパワー』」、『月刊愛媛ジャーナル』19924月号

木村秀哉「『住専』国民的悲劇」、『週刊東洋経済』1996511

及能正男「金融戦国時代  生損保に注がれる銀行の熱い視線」、毎日新聞社『エコノミスト』199635日号

及能正男「速報!! 主要21銀行決算 細密分析でわかった『救われざる銀行』」、毎日新聞社『エコノミスト』1996611日号

「銀行証券生損保ランキング 信頼できる銀行不安な銀行」、『週刊ダイヤモンド』1996525日号

笹岡正孝「消えゆく最後の相銀・東邦」、愛媛新聞社『えひめ雑誌』1991910日号

上代博紀「住専 5つのなぜ」、毎日新聞社『エコノミスト』1996213日号

菅野泰臣「バブル崩壊 地価半値に」、愛媛新聞社『えひめ雑誌』19921110日号

高谷秀男「住専泥沼・ノンバンク これだけ深刻、不良債権問題の焦点」、朝日新聞社『AERA1996318日号

武山邦夫+特別取材チーム「全予測 西暦二〇〇〇年の日本金融地図」、毎日新聞社『エコノミスト』19951121日号

中森貴和「ポスト住専の地雷原――ノンバンク倒産 銀行とノンバンクの『黒い絆』」、毎日新聞社『エコノミスト』19965714日号

『日経金融新聞』199641日、66

『日本経済新聞』19965820日、64

長谷川煕「政官農癒着の構造 誰も言わない農協の重大責任」、朝日新聞社『AERA1996226日号

http://www.kantei.go.jp/jp/jyusen/index-j.html

堀内昭義『金融の情報通信革命 21世紀の金融機能はこう変わる』東洋経済新報社、1996

はインターネット上で入手可能。