仕事柄,年に十回ぐらい出張をしている。プライベートを加えると,毎月旅行していることになる。東京や大阪に行くとビジネス・ホテルに泊まるが,地方に行くときは旅館に泊まることを楽しみにしている。これが割烹旅館で温泉に入れれば最高である。

最近では,山口の湯田温泉が良かった。慣れない仕事で疲れていたこともあるが,小さな家族旅館でゆっくり休養できたのは幸せであった。湯田温泉は山口市内にあり交通の便もよく,良心的な料金の旅館が多いので有難い。

温泉といえば,福島の飯坂温泉も良かった。ここは江戸時代の宿場町で,国の文化財に指定されている宿だった。一仕事終えた心地よさに,木の古さと囲炉裏が加わって何ともいえない感じだった。松尾芭蕉や与謝野晶子も訪れた温泉だが,現在では福島観光定期バスの始発駅にもなっており,交通の便も最高である。

地方に行く楽しみの一つは郷土料理である。西日本に住んでいると,北国の料理は美味しく感じられる。札幌といえば,まず海の幸,ウニやイクラ,イカ飯を思い出す。石狩鍋やジンギスカン,ラーメン横丁まであって,とても二〜三日では食べきれない。お隣の小樽には寿司屋通りがあり,ここにも足を伸ばしたくなる。

仙台では,伊達政宗ゆかりの青葉城や旧伊達邸の鐘景閣もいいのだが,つい牛タンに舌鼓を打ってしまう。横浜では,やはり中華街に繰り出してしまうのである。名古屋でも戦国時代の遺跡を横目にきしめんを,京都でも名刹を観ながら京料理を堪能したいのである。高松に行くと,昼は必ずうどんで,お酒の後もうどんになることもある。我ながら食べることばかりで気が引けてしまうが,乗りかかった船だからここで止めるわけにはいかない。

愛媛の郷土料理では,南予のぶっかけ鯛めし,関あじ,関さばが堪らない。庶民の味,じゃこ天も好物の一つである。南予の名物ばかりで申し訳ないが,北国もそうだが料理は寒暑のはっきりした土地で特徴がよく現れるようである。