臨床心理学者の河合隼雄氏は,日本の昔話を心理学的に説明しようとしています。昔話はその国の民衆の深層心理を表している面があるそうです。心理学というと難しそうですが,大変面白いので皆さんにご紹介いたします。
まず昔話には,全人類に共通といっていいほどの普遍性と,ある文化に特徴的な性格があります。
例えば,世界中に似たような昔話があります。人間特有の共通感覚のようなものが昔話に反映しているのでしょうか。
その一方で,日本の昔話では,「鶴の恩返し」のように女性が主人公になることが多くなっています。これに対して,西洋の昔話の多くが男性を主人公にしています。西洋では,怪物退治をする強い男性像が描かれています。この男性との結婚というハッピーエンドで西洋の昔話は幕を閉じるのです。
ここで,私たちに馴染みの深い日本の昔話に注目しましょう。多くの日本の昔話では,主人公の女性が去って物語が終わります。 女性が突然去ることによって,日本人の心に「あわれ」の感情が生じます。これが,日本人の美意識につながっていくのです。一方,去らなければならない女性の「うらみ」も日本独自の美意識になっています。そこで,主人公である女性像に迫ることによって,日本の昔話を考えてみましょう。
日本の昔話では,なぜ女性が去らなければならなかったのでしょう。よくあるパターンは,女性の「見るな」という禁を男性が犯してしまうことです。男性も禁を犯して見るという罪を犯しているのですが,女性にとっては見られることの恥の方が大きく立ち去っていくのです。「鶴の恩返し」であれば,自分が鶴であるという本性が夫である男性に露呈したのです。
この「本性が露呈する」ことが重要なのです。現代の結婚生活でも,結婚の前後で態度を変えることによって,離婚にいたり結婚生活が破綻することがよくあります。昔話はおとぎ話や夢物語の形をとっていますが,私たちの深層心理を表しており,現代にも生き続けています。