河合隼雄氏による,心理学的な日本の昔話の最終回です。

日本の昔話は母性が優位ですが,父性の役割は何なのでしょうか。母性に守られて母と娘の絆は強いのですが,それを最初に破るのが父性です。よく,娘は父親を異性として意識するといわれています。 

母と娘の絆の次に現れるのは,兄と妹の絆です。母性優位の日本では,兄と妹が逆になり姉と弟の絆になります。代表作は,中世末期の語り物「安寿と厨子王」でしょう。これは,安寿の死を「あわれ」と感じ,安寿の「うらみ」を厨子王が引き継ぐところがテーマになっています。「うらみ」は日本の民衆の活力を示しています。

母と娘の絆を最終的に破る男性は神話にも登場し,例えば古事記のスサノオが有名です。ディズニー映画にもなった「美女と野獣」も野獣によって男性の荒々しさを表しています。

ところで,日本の昔話には大別すると二つの女性像があります。一つは,「鶴の恩返し」に登場する自ら男性にプロポーズして結婚する女性です。もう一つは,「かぐや姫」でいくらプロポーズされても結婚しない永遠の少女です。

「鶴の恩返し」では,男性は結婚するまでは女性をチヤホヤします。ところが一度結婚すると,夫は妻の献身は当然と考え,妻との約束は平気で破るようになります。典型的な日本男性像が描かれているとも考えられます。

また,一度結ばれた夫婦が別れて,再び結ばれるハッピーエンドの昔話もあります。これは,現実の夫婦関係の危機と和解を表しています。この昔話では,耐える女性の存在によって,夫婦は危機を打開します。なにやら,一昔前の夫婦関係を連想してしまいます。

日本の昔話は日本人の深層心理を表していることがあります。日本では「男は度胸,女は愛嬌」といわれています。昔話では,少数ですが自ら行動を起こす女性が活躍することがあります。これは,男女を問わず日本人の未来像となるかもしれません。日本人の自我と結びついた日本人の未来像には,惹きつけられるものがあります。