アメリカ商業銀行と国債流通市場

―換金可能性と銀行流動性―

 

Keynesの流動性選好説を修正しようとしたHicks (1989) は,「銀行貸出は(証券)投資ほど流動的ではない」(p. 61)し,「貨幣への交換可能性の観点を除いては流動性を定義できない」(p. 42)と考えた。この見解によると,銀行貸出の貨幣への交換可能性が銀行流動性を左右することになろう。

本報告では,アメリカ商業銀行のターム・ローンの換金可能性と流動性を考察する。現在のターム・ローンの割賦返済では,借り手企業の生産期間と流通期間を反映して,月々ではなく四半期,半年,1年といった回収間隔の場合が多い。これらの貸付は完全割賦返済だけではなく,とくにターム・ローンでは回転信用との併用や満期時に最も大きな支払いをするバルーン・ノートの利用も多い。回収間隔が長く一定していないのである。

月々の完全割賦返済の場合には貸付に一定の流動性がえられたのだが,その他の割賦返済の場合には十分な流動性がえられない。製造業にたいする満期1年以上の商業銀行のターム・ローンは,第2次世界大戦後に増加している。ターム・ローンの場合には,通常の貸付―回収(還流)だけではなく,企業は減価償却基金で返済をおこなっている。さらに,銀行は,証券を売却し貨幣を入手することによって,流動性を維持している。週報告銀行は,第2次大戦後から,バランスシートの資産側において商業信用代位以外の銀行信用を増加させる一方で国債を減少させているのである。この国債売却によって,銀行は貨幣を手に入れることができる。銀行の資産管理である。

この銀行の資産管理は,貸付の回収とよく似たかたちでおこなわれる。言い換えると,通常の貸付―回収(還流)だけでは十分な流動性のない割賦信用が銀行の行動に影響をあたえ,それが国債流通市場を発達させていくのである。

国債流通市場を利用した銀行の資産管理によって,ターム・ローンは増加している。さらに,国債によるターム・ローンのヘッジ,すなわち1970年代後半からの先物取引,80年代後半からのストリップ債が導入されている。国債によるヘッジは,変動相場制移行後における銀行の資産管理を推し進めている。本報告では,ターム・ローンに付随した資産管理とそのヘッジも,国債流通市場の発達と関連付けて考察したい。

 

主要参考文献

Hicks, John (1989), A Market Theory of Money, Clarendon Press.

掛下達郎 (2002)『管理通貨制度の機構分析 ―アメリカ編―』松山大学総合研究所所報第39号。

川合一郎 (1965)『信用制度とインフレーション』有斐閣。(川合一郎 (1981)『川合一郎著作集 第五巻』有斐閣,所収)

川口慎二 (1961),『銀行流動性論 ―現代銀行論の基礎―』千倉書房。

 

証券経済学会第59回全国大会プログラム・報告要旨,13ページ。