政府による規制と保護を中核とする戦後アメリカの金融システムは,戦後の経済条件と適合し,金融安定性に寄与してきました。しかし,戦後の経済発展はその条件を変質させ,安定性を保証するはずの構造が不安定をもたらしています。一九八〇年代以降,金融の安定性を
回復させるために採られた措置は,一貫してフリーマーケット指向の規制緩和路線に他なりませんでした。
ところが,一九九〇年代末に起こったアジア金融危機やヘッジファンドの破綻によって市場の暴走が懸念され,市場原理主義に対する批判が高まっています。世紀の転換とともにアメリカ経済に翳りが見え始めるにつれて,実はニューエコノミーが自由化された金融システム
の下で引き起こされたバブルの上に成り立っていたことが判明しています。
アメリカの金融システムには,地域再投資法(CRA)などを通じて不十分であれ銀行行動を社会的に規制しようとする部分があります。今回の翻訳は,フリーマーケット・アプローチに対抗する金融システム改革のオルタナティブを提起するためのものです。金融システム
を投機から引き離し生産的投資と結びつけ,より民主的で公正な金融システムを再構築しようとする彼らの提言(例えば,規制の平等化,割引窓口貸出の活用など)に大いに耳を傾け,それが日本の金融システム改革に役立てばと願っています。
なお,この紹介は『評論』No.一二八(日本経済評論社,二〇〇一年八月)に掲載された監訳者の原田善教氏による文書の要約です。
(〜本の玉手箱〜『むっく』50,2002年)