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負債の測定に関する一考察


  従来、わが国の会計基準においては、「企業会計原則注解」注18の引当金の規定、「リース取引に係る会計基準に関する意見書」におけるリース負債の規定などのいくつかの例外を除いて、負債の測定に関する規定は存在しなかったし、負債の測定についての問題が取り上げられることは、必ずしも多いとはいえなかったように思われる。
このように、負債の測定問題がそれほど議論されずにきたのは、会計実務上、とりわけ大きな問題が発生しなかったからであると考えることができるように思われる。しかし、近年、デリバティブ、年金などの新たな会計問題が生じていること、またわが国の会計基準設定のためのoイブル化iんでいるとされるFASBの会計基準およびIASの設定過程において、負債の測定問題が大きくとりあげられていることなどの理由により、負債の測定問題についてさまざまな角度から考察がなされるようになってきている。そのおもな論点は、負債の公正価値または時価による測定であると考えられる。
また、1997年6月に改正された「連結財務諸表原則」では、支配獲得時において子会社の負債を公正価値(時価)で測定することが義務づけられており、負債の公正価値による測定は現実味を帯びてきているといえよう。
しかし、実際に負債について公正価値で測定を行うことを考えてみると、そもそも現行財務会計においては、一般に負債はどのように測定されていたのか、またその測定にはどのような意義があり、どのような問題点があるのかという問題でさえも明らかになっていないといわざるをえない。このために、負債を公正価値で測定することの意義と問題点が明確にならず、適正な議論が困難になっているように思われる。したがって、現行財務会計における負債の測定の現状と問題点および負債の公正価値の意義と問題点を明らかにすることにより、はじめて負債の測定問題を議論する基盤が得られると考えられる。
本論文は、かかる問題意識に基づいて、負債の測定に関する一般的な問題について検討を行うことを目的としている。そこで、本論文では次のような構成をもって考察を行いたい。
 まず第1章では、負債の測定問題を考察する前提として、負債の測定問題考察のための視点について検討する。そこでは、負債の測定問題の中心的課題は負債の測定属性の選択問題であることを指摘し、その選択問題を検討するおもな視点として利害調整と情報提供の2つをあげて考察をくわえる。次に、第2章においては、負債の各測定属性の意義と問題点を検討し、それに基づいてわが国における負債の測定属性の現状と問題点を検討する。次いで第3章において負債の公正価値の意義について明らかにしたのち、第4章において負債の測定属性の選択問題について考察を行うことにする。なお、ここでの考察は、特定の負債項目の測定属性について検討を行うことを目的としているのではなく、一般的な問題を扱っているということをかさねて述べておきたい。最後に第5章として、本論文を総括し、若干の展望を試みることにする。


〜目次〜

序章 問題の所在
第1章 負債の測定問題考察のための視点
 第1節 総 説
 第2節 会計における測定問題の意義と負債の測定
 第3節 利害調整と負債の測定問題
   1 利害調整の意義
   2 利害調整と負債の測定属性
 第4節 情報提供と負債の測定問題
   1 情報提供の意義
   2 負債概念の本質
   3 情報提供と負債の測定属性
第2章 負債の測定属性と現行財務会計における負債の測定の問題点
 第1節 総 説
 第2節 負債の測定属性としての実際現金受領額の意義と問題点
 第3節 負債の測定属性としての債務金額の意義と問題点
 第4節 負債の測定属性としての割引現在価値の意義と問題点
 第5節 負債の測定属性としての現在現金受領額
および現在決済価額の意義と問題点
 第6節 現行財務会計における負債の測定属性
 第7節 現行財務会計における負債の測定属性の問題点
第3章 負債の公正価値の意義
 第1節 公正価値の意義
 第2節 負債の割引現在価値と割引率
   1 借入利子率
   2 決済利子率
   3 割引現在価値の本質
 第3節 負債の公正価値の2つの意味
第4章 負債の測定属性の選択問題の検討
 第1節 総 説
 第2節 非金融負債の測定
 第3節 キャッシュ・フローが確定している金融負債の測定
 第4節 キャッシュ・フローが確定していない金融負債の測定
第5章 総括と展望
 第1節 総 括
 第2節 展 望

主要引用および参考文献