久保田 研究室

研究


固体高分子形燃料電池の非白金カソード開発
 固体高分子形燃料電池(PEFC)を用いる燃料電池自動車は2014年12月に市販され社会導入が進んでいます。しかしながら燃料電池
自動車(乗用車)1台当たり数10グラムの白金触媒が用いられています。白金は世界で年間200トン程度しか産出されない貴重な資源
で、自動車は世界で年間6000千万台も生産されているので、現在の燃料電池自動車の技術では広い普及は期待できません。久保田
研究室では白金を用いない電極触媒の研究開発を行っています。

 PEFCで特に多量の白金を用いるのはカソード触媒(酸素極触媒)です。PEFCの1つの欠点は電解質であるイオン交換性高分子が希硫
酸に相当する強酸性をもつことです。白金や金など貴金属以外には、このような酸性下で溶解しない金属化合物は稀です。このような強
酸性の条件でも高い耐久性をもつ材料群としてタンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムの化合物があげられます。これらの金属種は表面
に高い安定性をもつ酸化物などの不動態層を形成することからバルブ金属と呼ばれ、腐食性の高い物質の配管材料として用いられてき
ました。このような材料をナノ粒子化することによってカソード触媒としての機能を見出す方法を見出すことが、このテーマの目的です。

 電極触媒においては、通常の熱触媒とは異なり導電性の確保が重要な要素になります。タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムなどの
金属酸化物は通常では導電性を有しないため、ナノ粒子化して高表面積で導電性の高い炭素担体に担持する必要があります。この調
製法について検討を進めます。

 また、実際のPEFCにも用いられている炭素担体には、カソードの高電位条件下での酸化分解による劣化の問題も残されています。燃
料電池の逆反応である水電解(PEEC)は、電力を水素エネルギーに変換する有力な手法ですが、酸素極はPEFCより更に高電位になる
ため炭素系材料を担体として使うことができません。そこで電極触媒の担体として用いることができる、導電性酸化物の電極触媒担体と
しての応用も目指します。


PEFCカソード触媒のための様々な金属酸化物ナノ粒子触媒の電子顕微鏡像

左図:カーボンブラックに担持した酸化タンタルナノ粒子、右図:カーボンナノチューブに担持した窒化チタンナノ粒子。

タンタル、ニオブ、ジルコニウム酸化物ナノ粒子の酸素還元反応の電流電位特性。高い電位から電流が流れ始める触媒は、PEFCに実装したとき高い発電電圧が得られる。

固体酸化物形燃料電池の電極触媒表面の研究
 固体酸化物形燃料電池(SOFC)は家庭用燃料電池(エネファーム)として普及が進んでいます。また、SOFCトリプルコンバインド発電所など、大規模用途への期待も高まっています。しかし、アノード触媒(燃料極触媒)表面での運転条件変化時などの炭素析出による性能劣化によって安定に運転できないなどの問題点もあります。また実用化されているSOFCは運転温度が800〜1000℃と高いため、高温での機械的な強度の不足や、運転停止が困難である欠点もあり、300〜600℃で運転できるSOFCが期待されています。しかし低温化に伴い、現在の触媒では性能の不十分さが顕著です。これらの問題点を、どのようにしたら解決できるか、SOFCの電極表面の状態を詳しく調べ、酸化物電解質と電極触媒との相互作用や、電極触媒表面の活性点の構造を明らかにします。


Ni電極触媒に吸着したCO分子の赤外透過吸収スペクトル

酸化物電解質がYSZ(イットリウム安定化酸化ジルコニウム)とGDC(ガドリニウム添加酸化セリウム)では同じNi表面に吸着したCOでもC-O伸縮振動数が異なる。

Ni/GDC界面の想像図。左図の赤外スペクトルの結果から酸化物電解質はNiと完全に分離して存在するのではなく、表面では相互に混ざっていることが提案された。図の球は、黒:C、灰:Ni、赤:O、緑:Ceを示す。

アンモニア電解合成法のための電極触媒の研究開発
 アンモニアは世界で年間1800万トン程度生産されるバルク化学品で、その8割は肥料として農業に用いられ人類の食料を支えています。現在アンモニアは化石燃料から得た水素と空気中の窒素をハーバーボッシュ法によって触媒反応させて得ています。これに用いられている化石燃料は、人類の使用する化石燃料の1〜2%であり無視できない量です。すなわち人類は食料までをも化石資源から直接得ているため、化石エネルギー社会から脱するためには、再生可能エネルギーから効率よくアンモニアを生産できるプロセスを開発する必要があります。本研究室では再生可能電力によって水と窒素からアンモニアを得るための電気化学システムとその電極触媒の研究開発をしています。

水と窒素から電気エネルギーによってアンモニアを得るための電気化学セル

触媒表面の吸着分子の挙動の研究
 上で述べたような触媒の性質を理解し、その性能を向上させるためには、触媒の表面で分子がどのように振る舞うかをきちんと理解する必要があります。固体触媒反応は、必ず反応分子が表面に吸着し、そして表面で反応し、生成物が表面から脱離して得られます。この過程における吸着熱などの熱力学的パラメーターや、触媒表面原子あたり何分子が吸着できる吸着構造かなどの分子構造学的な情報は、化学工学的に触媒を扱うときに必須なパラメーターです。これらを物理化学的な分析法によって明らかにし、触媒を改良するための指針にします。具体的には赤外分光法による吸着種の赤外スペクトル測定、超低温からの昇温脱離スペクトル解析、走査プローブ顕微鏡観察などを巧みに利用した表面吸着種、および吸着サイトのキャラクタリゼーションを行います。


吸着分子の赤外吸収スペクトルを得るための装置

フーリエ変換赤外分光器と、石英セル、ガラス製真空系からなる。試料は-150〜600℃に制御でき、真空〜大気圧の気体を導入できる。

各種PEFCカソード触媒に酸素を非解離(分子状)吸着させ、そこからの昇温脱離スペクトル。白金触媒と非白金触媒の脱離温度差は顕著で、この吸着力の差異が活性と関係があることが予想されている


粉体のレオロジ―的研究
粉は、小麦粉や医薬品、化粧品など身の回りの種々なものに使われていて日常生活、衣・食・住に深いかかわりがある身近な存在です。工場においても製品、原料、燃料などに使われています。
粉の流動性(流れやすさ)を調べることで粉を運んだり、容器に貯めたり、容器内の粉を抜き出したりと様々な場面で、トラブルなく粉を操ることが出来るようになります。その粉に適した、輸送装置や貯蔵容器を設計することによって工場の安全で安定した運転が可能になります。 







粉体の特性を調べるための装置

粉体、なかでも微粉体は、閉塞または逆の現象のフラッシングを生じ易く、その特性を把握することが必要である


噴流層装置特性(変形噴流層)
噴流層(Spouted Beds)は、粒子層底部を円錐状とし、単一孔から高流速で粒子層にガスを流入させるもので、中心軸付近に粒子濃度が希薄で、ガスとともに上向き粒子が流れる噴流(Spout)が形成され、その周囲を粒子が移動層状に下降する環状構造(Annulus)を示します。
 この噴流層装置の応用としては、穀物の乾燥、石灰岩の粉砕、粉体材料の大きさを揃えるための分級、環境装置としてのダストの集塵、機能性粉体に調整するための粉体の造粒、コーティングなどの各種の粉体のプロセシングに利用が可能です。



Mathur, K.B. and N.Epstein :"Spouted Beds", Academic Press New York (1974) から引用
粉体を流動化して液体のように扱うための装置

変形噴流層の装置開発において、粒子群やガスの挙動について通常の流動層や噴流層との類似点, 相違点を明らかにし、その装置特性について検討している。


噴流層の最大噴流化速度、ガス流量、粒子循環速度などの操作因子の関係を数式化し、スケールアップに役立てる。
また、流動マップを作成すると経済的で安定した操作の指標となる。