研究紹介

教室の研究テーマをご紹介します。テーマをクリックすると詳細が表示されます。

アルツハイマー病の発症原因と治療薬の開発研究

 我が国のアルツハイマー病患者の大半は、高齢ゆえに高血圧症や糖尿病などの生活習慣病をその背景に有しており、それにより認知症への進行が速く予後も悪いことが知られています。我々の研究室では臨床現場に目を向けて、糖尿病や脳循環障害などの生活習慣病要因が背景にあるアルツハイマー病を想定して動物モデルを作成し、有効や薬を探しています。方法としては実験的脳血管障害ラットや高脂血症、糖尿病ラットを用いて脳室内にβ―アミロイドを微量注入し8方向放射状迷路課題を用いて空間記憶障害を観察し、改善薬を探索します。アルツハイマー病患者脳の遺伝子を組み換えて脳内にβ—アミロイドやタウ蛋白を蓄積するようにした遺伝子改変マウスを用いた実験もやっています。  アルツハイマー病の原因追究のために、培養細胞を用いて神経細胞死や神経伸長の変容、さらにはそれを改善する治療薬の開発をin vitroレベルでも研究しています。

脳血管性認知症の発症原因と治療薬の開発研究

 脳血管性認知症は脳卒中などの脳血管障害の後遺症として多く発症しますが、我々はラットの脳血流を維持している総頚動脈と椎骨動脈を一時的に閉塞する(4血管閉塞法)方法で、これを再現しました。ラットに10分間の短時間脳虚血を施すとその24時間後に8方向放射状迷路課題において著明な空間認知障害が発現することを見出だし、多くの脳循環代謝改善剤の薬効評価を行っています。

漢方方剤の中枢作用の科学的評価(漢方を科学する)

 精神疾患に有効と考えられる漢方薬を取り上げ、その効果を行動薬理学的、分子薬理学的手法を用いて「現代の科学」で証明している。これまでに大黄単味が統合失調症に有効であること、柴胡加龍骨牡蠣湯や抑肝散加陳皮半夏がうつ病に有効なこと、黄連解毒湯が脳血管障害に有効なこと、そして当帰芍薬散がアルツハイマー病の中核症状に有効なこと、抑肝散がアルツハイマー病の周辺症状に有効なことを動物実験で科学的に実証してきました。特に、抑肝散は我々の基礎研究の成果が臨床応用に大きく貢献し、今ではアルツハイマー病の初期にみられる問題行動(BPSD)には多くの医療機関で抑肝散が使用されるようになりました。

精神疾患の行動薬理学的研究

 統合失調症、うつ病、強迫性障害、パニック障害などの精神科領域の疾患について、それぞれ病態モデル動物を考案作成し、患者さんの症状に合わせた行動観察を行いそれぞれの疾患の発症に伴う行動変容の特性や脳内神経伝達物質動態を詳細に調べ発症原因と治療薬の開発を行っています。

小児てんかんシナプスとグリア創薬に関する研究

 小児てんかんは罹患数の多い疾患です。私たちは、難治性小児てんかんドラベ症候群の発症機序と脳内シナプスの生理学的解析を行っています。最近は、健常者由来のiPS細胞からグリア細胞(アストロサイト)を誘導して研究を行っています。今後は、ドラベ症候群患者由来のiPS細胞でも同様の研究を行う予定です。福岡大学医学部との共同研究です。

人工神経ネットワークの開発と人工脳創発への挑戦

 脳の神経回路は、神経細胞(ニューロン)とグリア細胞で主に構成されます。哺乳類の進化において、高次機能を有する高等動物ほどグリア細胞は多いと言われています。すなわち、グリア細胞の脳内占拠率が「賢い脳」を作る鍵を握っているかもしれません。私たちはニューロンとグリア細胞の混成比率が異なる神経培養標本を作製し、シナプス可塑性やシナプス形成秩序に違いがあるかどうかを、電気生理学的および免疫染色学的手法を用いて解析しています。東北大学電気通信研究所との共同研究です。

病態アストロサイトによるシナプス機能変化に関する研究

 脳を形成する細胞の中では、グリア細胞(アストロサイト)が最も多いことが知られています。シナプス機能を担うニューロンに特化した創薬開発も大事ですが、私たちはシナプス機能をサポートするアストロサイトの変性によるシナプス病態に着目して、新たな創薬ターゲットを探究しています。
 最近はてんかん患者由来iPS細胞から分化したアストロサイトによるシナプス機能を、電気生理学的および免疫染色学的手法を用いて解析しています。

静かなるシナプスを呼び覚ます研究

 脳内には多数のニューロンがあり、一つのニューロン(下図:緑)は多数のシナプス(下図:赤)を持っています。その20%はサイレントシナプスと呼ばれ、神経伝達物質を放出していません。私たちは一つのニューロンに対するシナプスの投射位置に着目し、サイレントシナプスをアクティブにする(呼び覚ます)メカニズムについて、電気生理学的手法と蛍光プローブ(FM®1-43)を組み合わせて解析しています。